過去に、新潟でも見えたオーロラについてご紹介します。

太陽活動の活発な時期には、日本のような緯度の低い地域でもしばしばオーロラが観測されることがあります。古い史書にも｢赤気（せっき）｣または「紅気（こうき）」としてしばしば登場します。こうした「低緯度オーロラ」は、北の空が暗赤色に染まる巨大な幕のようなオーロラで、大火事と間違えられて消防署が出動することもあるほどです。
　日本でオーロラが見える場合には、「フレア」のような太陽面での活発な爆発現象から約２日後、烈しい「磁気嵐」という地球磁場の擾乱が起きる時です。さらに、季節的には春と秋に発生しやすいことが過去の記録からわかっています。

1989年（平成元年）10月21日、オーロラが北海道や東北地方に出現し、新潟市でも肉眼では見えなかったものの、新潟大学のチームにより写真撮影・分光観測がなされました。89年以前に新潟県内で“確かに”見え（観測され）、かつ記録として残されているオーロラはわずか次の3例にすぎません。

�@1770年9月17日（明和七年七月二十八日）
�A1909年（明治42年）9月26日
�B1958年（昭和33年）2月11日

　�@のオーロラは、約四十種の書物にその記録があり、北は北海道から南は九州北部にまでわたって現れたといいます。
・「越後年代記」には、「北方赤きこと如火　其中に白蛇顕れ南北になびくこと五十余筋」と記されています。この史料は、強烈な印象をもって肉眼に見える暗赤色のなかに、その最盛期にははっきりした形で垂直な白っぽく見える筋模様（光の柱）が現れる、といった低緯度オーロラの特徴をよく表わしています。特に｢白蛇｣や｢南北になびく｣といった、極地のオーロラを連想させる描写であり、実に興味深いところです。
・「佐渡年代記」は、外海府の村々で大火事が起きたのではないかと伝えています。

　�Aのオーロラの出現は有名で、北海道はもとより秋田、新潟で観測されています。
・新潟新聞は、「昨暁の極光（オーロラ）　当地にては初めて出現　一時は火事と誤まらる」という見出しで、市内二十三ヶ所の警鐘を打ち鳴らして第四部消防組が出動したため、一時はかなりの騒動となったことや、日本海を走行中の船が失火したのではないかとか、佐渡に火災が発生したといった噂が広まったことを報じています。

　�Bのオーロラは、たいへん規模が大きく、広範囲で天候に恵まれていたためよく見えました。北海道をはじめ、東北、北陸、中部(長野)、関東の各地で観測が報告されています。
・新潟日報は、「昨夜赤いオーロラ　北方に県下各地で観測」という見出しと共に、日本海の北方海上の空に赤く輝く“異常現象”を発見し、火事ではないかと第九管区海上保安本部が巡視船を出す騒ぎになったことを報じています。

ある日の晩、突然に北の空が真っ赤に染まり、そのなかで幾本もの白い筋が南北になびく・・・。そんな光景を目の当たりにすれば、人々が受ける印象は決して良いものではなかったはずです。
　県内の記録には残っていませんが、1204年2月21日(元久元年正月十九日)の京都で見えたオーロラを、新古今和歌集の選者でもあった藤原定家は、日記「明月記（めいげっき）」のなかで次のように記しています。
「・・白光赤光相交奇而尚可奇 可恐々々」
　当時の人々が、その色合いや様相などから、やはり不吉な前兆として恐れていたことがわかります。そして、その恐怖心は一時的ではありますが、ほうき星（彗星）よりももっと強烈だったと思われます。
　低緯度オーロラの“赤”は、鮮明な赤というよりは、上空数百キロメートルの酸素原子が発光する特有の“暗赤色”で、日本に限らず人々は、血や戦争を思い起こしたり、火事を連想することが多かったようです。特に北陸では北側に日本海が広がっているため、越中（富山）・氷見での記録（1730年2月15日）に、「海火事」という表記があったことを附記しておきます。

　　　　　　　　　　中沢　陽　（ 元　新潟県立自然科学館　自然・天文課 ）